香港の甘い豆腐


自分が誰で、今どこに居るのかわかっていますか?
自分の人生だからって、思ったようには生きられない。



高校生の彩美には、生まれた時から父親がいない。
近くに住む祖母の助けを借りながら、
母は仕事中心の生活を続けて彩美を育ててきた。
高校1年の終わりくらいから、母親に内緒でちょくちょく学校を休み始めた彩美は、
どんどん学校から遠ざかり、遂に母親が学校に呼び出され、ばれてしまう。
怠惰な暮らしに慣れてしまうと、気持ちも体も全てが無気力になり、
彩美は、私が人と関わるのが苦手なのは、
「きっと父親がいないせいだ」と、責任転化を決め込む。
そして夏休みに入り、さらにだらし無い日々を送る彩美だった。


そんなある日、今まで仕事をほとんど休んだことのない母親が、
四日間の休暇を取り、強制的に彩美を連れて香港に旅立った。
どうして香港に行くのか?と聞く彩美に向かって母親は
「父親に会いたいんでしょ」と返事をする。
それはいったいどういうこと?
色々な思いが一度に押し寄せてきて、
香港に向かう飛行機の中で彩美は眠ることも出来なかった。


何も起こらない、つまらない夏休みになるはずだったのに・・・。
17歳の夏休みいっぱいを香港で過ごす事になろうとは、
母も、祖母も、そして彩美自身も。
だれも予想していなかった。


街全体がキッチンのような、活気溢れる不思議な街香港。
そこで過ごした時間と、出会った人たちは、
彩美に大きな変化をもたらした。
特別ではないごく普通の朝。ごく普通の風景の中で、
しみじみとここは香港だなぁ・・・と思った瞬間に、
彩美は確実に、そしてはっきりと自分の存在と今いる場所がきちんと見えた。


17歳は自分に気付く年齢かもしれない。
色々な人に出会うことで、自分と向き合うことができるんだろう。
上手に自分と出会うことが出来ますように・・・
祖母、母、娘と三人の女性の三様の生き方。
そして家族として、友人としての様々な人とのつながりが描かれている物語。



「香港の甘い豆腐」


大島真寿美/著

理論社    1500円


ヤングアダルト



最近「豆腐花」が流行っていますね。
私も大好きです。
そう、「香港の甘い豆腐」です。