すきまのおともだちたち
それは唐突に迷子になるのです。
そう、まるで隙間に落っこちた時のように。
江國香織さんの小説のタイトルにはいつもやられてしまう。
書店に並んでいるその本のタイトルを見ただけで、もう迷わず買ってしまいます。
そういうことなので、江國香織さんの本はほとんど持っています。
この小説には固有名詞が出てきません。
女の子は女の子、お皿はお皿。私は、大人の女の人のお客様なのです。
新聞記者の女の人は取材に出掛けた先で、恋人に葉書を書いて旅先の町でポストに投函しようとしましたが、
町の風景は一変していて行けども行けどもさっきの郵便局は見当たりません。
途方に暮れた女の人は、庭先で小気味良い音をたてながらシーツを干している女の子に道を聞こうと話しかけました。
女の人はその家のお客様になりました。
女の人は記者としての仕事や待ち合わせしている恋人のことを気にして帰ろうとしますが、帰り道が見つかりません。
迷子になってしまったようです。
でも、女の子の家にいるとなぜか不思議な安心感に包まれます。
お皿の身の上話を聞いたり、女の子と海に行って「ふろしき」に会ったりと不思議で、ゆったりとした楽しい時間を過ごします。
・・・・・気が付くと、葉書を投函しようとしていた旅先の町にいました。
人生の中で、不定期に引き込まれてしまう「すきま」
こちらの世界で女の人は着実に年を重ねているのに、「すきまのおともだちたち」はいつまでもそのままのすがたで暮しています。
初対面の時、女の子は生まれた時から女の子ですから、ずっと今のままなので「私には思い出がない」と言いました。
何回目かに「すきま」に引き寄せられた時、年老いた女の人に女の子は「過去の思い出」を手に入れたといいます。
でもそれは
「過去の思い出って淋しいのね。それに悲しい。じれったくもあるし、絶望的でもある。」
と、そして「それでもまだ来る?」と聞きます。
おばあさんになった女の人は「だぶん」と答えるのでした。
不思議で、きっぱりとしたお話。
「すきまのおともだちたち」
江國香織/著
こみねゆら/絵
中学生ぐらい〜
白泉社 1200円