人形の旅立ち


山陰のふるさとの町で紡ぎだされた、
五つのファンタジー



長谷川摂子さんのふるさとを舞台にした、

五編のファンタジー

ファンタジーでありながら、自伝の要素も含んでいる作品。

小さい頃に抱いていた、不思議や怖れが作品になっています。

物語はさらさらと流れていきます。

そこに意外性は無く、

ファンタジーなのか本当なのか読んでいる側はわからなくなってきます。



「人形の旅立ち」

古くなった雛人形は、子どもにとってなんだか怖い。

人形供養に出された人形たちは、

氏神さんの境内の楠の巨木のうろから満月の夜に旅立っていく。

おばあちゃんとお見送りした晩の思い出。


「椿の庭」

とらおじじ、が働く畑は子どもたちの「こーえん」。

そこは、昔「死に病」で亡くなった「きみじょっちゃん」の遊び場でもあった。

とらおじじは、今でも時々、きみじょっちゃんと遊んでいるという。

ある日、畑に行くときみじょっちゃんと遊んでいるとらおじじに会った。


「妹」

小児結核にかかった妹の寝部屋にされた茶室。

茶室につながる廊下にある便所には、

過去の地震で壁に亀裂が入っている。

子どもにはそれが竜に見えて恐ろしかった。

しかし、そこの扉を開けると、

病気の妹だけが知っている世界があるのだった。


他、「ハンモック」 「観音の宴」の五編。


この物語は生活の中にある「病」や「死」が書かれている。

懐かしくて、不思議で、繊細な連作ファンタジーです。



「人形の旅立ち」


長谷川摂子/著

金井英津子/画


福音館書店     1700円

中学生〜


物語の繊細さを支える、金井さんの版画もまたすばらしい。
文と画が一体となって世界を作り出している。





人形の旅立ち (福音館創作童話シリーズ)