火星の人類学者
脳神経科医と7人の奇妙な患者
など、脳に何らかの障害を持っている7人の患者の本当の話。
症例の研究対象としての患者を超え、
その一人一人の人生をも見つめる著者の暖かいまなざしがいい。
「医学」と聞いただけでなんだか難しく思いがちだけれど、
7人の人達の持つ「違う文化」を垣間見るようで、
興味深く引き込まれ、次々に読み進んでしまう。
タイトルにもある「火星の人類学者」の項は
世界的な動物学者でもある、
高機能自閉症のテンプル・グランディンさんのこと。
著者は彼女が心の安定を得るために自ら設計した
「締め上げ機」を実際に体験する。
診察室にいるのではなく、
白衣を脱ぎ研究対象者の実生活をじかに体験し探求し続ける著者は自分の事を、
「ある意味では珍しい生物の生態を観察する博物学者、
ある意味ではフィールドワークをする人類学者、
それとも神経人類学者のようなものだが、
なによりもあちこちを往診して歩く医者、
それとも人間経験のはるかな極限の地まで往診する医者」
と言っています。
さらに、同じ神経学者の言葉を借りて
「障害を持つ子供たちは質のちがった、独特な発達の仕方をする・・・中略
この独特の道が、障害のマイナスを補償作用のプラスに変える。」
と書かれています。
まさに、「事実は小説よりも奇なり」です。
「火星の人類学者」
吉田利子/訳
ハヤカワ・ノンフィクション文庫
「自閉症の文化」に興味を持った方にイチオシの入門書
ワンコインブック
「やさしい自閉症のススメ」